「嫌ーな予感のすっとです。あのときと同じ嫌ーな感じ。
いやあれ以上に嫌〜な感じ」
「はしごば外される選手の気持ちわかりますか?田畑さん」
これは、『いだてん』第37回で、
戦争の激化に伴い、
1940年の東京オリンピック中止論が高まる中での
金栗四三(中村勘九郎)の叫び。
かつて四三は、ベルリン五輪に出場予定で、
その当時は選手として絶好調、金メダルも射程範囲内のはずだった。
しかし、この五輪が中止となり、突然目標を失うこととなった。
そして虚無感からどうしようもない引きこもり状態になったのは、
第17回の「いつも2人で」で描かれた通り。
今思えば、
いつも前向きだった四三があんなに落ち込み、
あれほど絶望している姿を描くのって、
ちょっと不思議だった。
もちろん、
真面目で、マラソンに勝つために、
妻の上京も気が散るからと許さないほど
努力してきた人が落ち込んでる姿
を描くことで、
人生の山あり谷ありを表現しているのだろうとは思っていた。
でも四三のキャラクターから考えると、
友人が心配して部屋に押しかけるほど部屋に閉じこもり、
無気力になっているシーンを描くのは
いささかオーバーだと感じていた。
けれど今回、四三が田畑のところまで押しかけて
冒頭のセリフを言ったことでピンときた。
四三のベルリン五輪中止による無気力というのは、
1940年の東京五輪を目指していた選手の無念さを
強調するための伏線だったのかもしれない、と。
ベルリン五輪と1940年の東京五輪。
共通点はどちらも戦争による中止だけれども、
ベルリンのときとまったく違うのは、
その戦争は日本が当事者であること。
これには、四三自身も
「ドンパチやってる国で平和の祭典。矛盾しとるばい」
と思っている。
でも、一方で自分が指導している小松(仲野太賀)を
東京オリンピックに出場させたい
という“矛盾”した思いを抱えていることを
田畑政治(阿部サダヲ)に打ち明ける。
田畑は四三のその思いに
“矛盾”していると突き放すが、
やっぱり気持ちは同じ。
だから、田畑はこんなことを言っちゃう。
「スポーツに矛盾はつきものだよ。
なぜ走る、なぜ泳ぐ。答えられん。
でもそれしかないじゃんね。
戦争で勝ちたいんじゃない。
マラソンで勝ちたい、水泳で勝ちたいんだよ」
純粋にスポーツの祭典、平和の祭典として楽しみたい一方、
まったく平和なことをしていない日本で
五輪を開催する意味とは……。
そこに揺れる田畑がこれからどう動くのか、
しかも嘉納治五郎(役所広司)がいなくなった
このタイミングでどうなっていくのか……。
コメディ要素がどうしても入れにくい時代に突入しけれど、
ここで描かれるシーンがもしかしたら、
1964年の東京五輪招致の“伏線”として
生きていくのかもしれない。
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