正直、『いだてん』でオリンピック開催間近の時代がメインパートになってから、
古今亭志ん生(ビートたけし)と五りん(神木隆之介)のパートっていらないんじゃ?
と思ったのよね。
でも最終話を見て、そうじゃなかったんだと確信した。
まず主人公と言われていた金栗四三(中村勘九郎)の話を延々と語られると思い込んでいた第1話。
それなのに、突然、古今亭志ん生が出てきて、満州で亡くなった父から届いた手紙に「志ん生の『富久』は絶品」と書かれているから弟子入りさせてと、小松(のちの五りん)なんて青年が出てきた。
それで「あれ? 『いだてん』って金栗四三が主人公じゃないの?」と離脱した人もいたと思うけど、この「富久」が『いだてん』全体の話をまとめる大きなキーワードだったのね。
まず、ドラマの主人公は金栗四三、田畑政治(阿部サダヲ)という触れ込みだったけれど、これは古今亭志ん生と五りんが披露する「東京オリムピック噺」の主人公でもあった構造をとっていること。
そして、その話のモチーフが「富久」だった。
このネタの主人公が浅草から日本橋まで走る描写があることから、いだてん・金栗四三とひっかけていたのだと思う。
四三と同じく、オリンピックに情熱を燃やした田畑政治も巻き込んで、1964年の東京オリンピック開催までを「東京オリムピック噺」で描いていった。

もうひとつ「富久」は、最終話そして『いだてん』の最後を締めるオチとして機能していたこと。
オチは、志ん生と五りんの話。
数話前から、目的を見失った五りんは志ん生のもとから黙って消え、実質破門のような形に。
でも、志ん生の娘でマネージャーの美津子(小泉今日子)が、落語協会選出の聖火ランナー(実際は、ランナーをサポートする取り巻きランナーだったんだけど……)に誘ったおかげで、東京オリンピックに関わることになった。
これで、落語会から逃げてもよかったんだけど、走っているうちにやっぱり師匠たちと今後も関わっていきたいと考えた五りん。
そこで、聖火(サポート)ランナーの役目が終わった姿のまま、「富久」のごとく、志ん生がテレビ収録で訪れている東京タワー(芝)まで“走って”、許してもらうというオチ。
ここがよかったのは、幻の東京オリンピックにマラソンランナーとして出られたかもしれなかった五りんの父(仲野太賀)が、満州で「富久」の走る距離が短いと志ん生に文句を言って、芝まで伸ばしてもらったエピソードにひっかけて、志ん生が芝にいるというところ。
はじめからキーワードだった「富久」が、ちゃんと最後まで生きていたし、そのためには志ん生と五りんの存在はマストだった。
だから、東京オリンピック目前パートになっても、彼らの存在は必要だったんだと思った次第。
物語としては、誰が主人公なのか混乱しそうだし、現在、過去、未来とタイムスリップしまくりだし、一見わかりにくかった『いだてん』。
でも分析するたびに、やっぱりよく出来ているお話だったと思う。
放送したらそれだけで終わるのではなく、何回も見続けられるコンテンツが私としては重要だと考えているのだけど、『いだてん』こそ間違いなく、何度も見たくなる、愛される作品だと思う。
「また宮藤官九郎に大河を」という声があるみたいだけど
宮藤官九郎に再ラブコール NHK放送総局長「また大河を」 – スポニチ Sponichi Annex 芸能
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