ユーミンの名曲から生まれた短編小説のドラマ『ユーミンストーリーズ』をレビュー

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2024年3月4日〜3月21日の月曜〜木曜22:45よりNHK総合で放送していたドラマ『ユーミンストーリーズ』。
松任谷由実の名曲から生まれた短編小説の中から3作品をドラマ化。
それぞれ、夏帆、麻生久美子、宮﨑あおいを主人公に恋愛や友情などを描いた作品。
このドラマのあらすじ・レビューを書いた記事です。

目次

過去の恋愛の後悔を思い知らされる「青春のリグレット」

あらすじ

本心を隠し、人の様子に合わせた態度をとるのが得意な菓子(夏帆)。
おかげで、若い頃はうまく遊んでいた。

そして、結婚適齢期に差し掛かり、堅実な人と身を固めたいと思っていたところに出会ったのが浩介(中島歩)。
彼が女慣れしていないところに惹かれ、うまくやりこめて彼との結婚が叶った。
しかし、愛されることなく、彼が浮気していることを知ってしまう。

ここは騒がず、八ヶ岳まで旅行へ行き、関係を修復しようと試みる。
が、それどころか、夫から離婚を切り出されてしまう始末。

そんなときに思い出したのが、同じように八ヶ岳に来た元カレ・陸(金子大地)との出来事だった。
彼とは社会人になって割とすぐの頃に付き合ったが、一緒にいても退屈だった。
八ヶ岳の旅行ではそれが爆発してしまい、結局ケンカをして、別れることに。

ただ、今回の八ヶ岳の再訪で、菓子は陸のあのときの本音を思いがけず知ることになってしまう。

レビュー

陸は、唯一菓子が本音を言えた相手だったが、愛すことはできなかった。
そして彼は菓子に愛されていないのがわかっていても、つい振り向いてほしくて機嫌をとるようなことを態度をとってしまう。
それと同じことを菓子が今回の旅行でしていた。
そしてようやく彼女は、機嫌をとっても愛されないことの虚しさと、本音が言えない関係性の苦しさに気づく。

昔、自分がやったことがブーメランのように返ってきて、菓子を苦しめるというストーリーの流れは痛快ではあったけれど、彼女の立場になって物語を見つめると、辛い。
ただ、痛い経験をしないと、後悔も自分の嫌なクセも見えてこないよね。
それを真正面に受け止めて、乗り越えていくのもまた辛いんだけど。

で、菓子の結婚は、予想通りの結末を迎える。
けど、不思議とそこにモヤモヤしたものはなく、陸と別れたときにやり残した宿題をようやく終えたような爽快感があった。

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子育て、介護……さまざまな悩みを抱える女たちの緩やかな友情を描いた「冬の終り」

あらすじ

スーパーに併設された軽食コーナー・コンタちゃんでパートをしている藤田さん(麻生久美子)。
最近入ってきた仙川さん(篠原ゆき子)とはほとんど会話がなく、その距離感がもどかしい。

そんなあるとき、有線で聞こえてきたユーミンの「冬の終り」をきっかけに、仙川さんが話しかけてきた。
それが内田有紀と一色紗英が出てた昔のドラマ『その時、ハートは盗まれた』のエンディングテーマだったことはよくわからなかったけれど、一瞬盛り上がったのが忘れられない。

この空気を再現したくて、有線に何度もリクエストするものの、なかなかかからない。

あるとき、スーパーの館内放送の音楽として流せばいいと思いつき、これまで話したこともなかった、鮮魚売り場担当の定岡さん(浅田美代子)とみつきちゃん(伊東蒼)に相談するのだが……。

レビュー

藤田さんは子供の発育、仙川さんは父親の介護、定岡さんは引きこもっていたのに突然家を出た息子、みつきちゃんは中退した高校の友達との関係性。
それぞれ、心配事や悩みを抱えている。

そんな背景もあるから、藤田さんがママ友と付き合うのも面倒くさがるほど人と距離をとっているのも、仙川さんがパート先で話さないのも、みつきちゃんが若いのにスーパーで働いているのも、定岡さんが物わかりいいのも、なんとなくわかる。

けど、表面上はそれがわからないわけだし、担当している持ち場が違ったりするから、普通だったらそこに友情が生まれるところはなさそう。
ところが、「冬の終り」がきっかけで、少なくとも藤田さん、定岡さん、みつきちゃん、あと社員の前田さん(クリスタル ケイ)の中には緩やかに友情が育まれたところがおもしろい。
そして、「仲良くしたいわけじゃない」と言っておきながら、仙川さんとの友情への期待が膨らむ藤田さんの姿も見どころ。

ただ、それぞれが抱える背景は受け手にはわかるように描かれているけど、それが登場人物たちの間であんまり表面化されていないところが消化不良。
そして、藤田さんも、仙川さんも、定岡さんも、みつきちゃんも、それを乗り越えるような乗り越えないような、まだ入口に立ってるところで終わってしまった。

これから先は視聴者側の想像に委ねられているのかもしれないけど、個人的にはあまりにも中途半端なところでスパッと断ち切られてしまって、結局、定岡さんのミルクティーはどんだけ美味しいんだろう……ってところで思考が止まってしまったのが惜しい。

原作未読だったので、原作で彼女たちのストーリーをもっと味わうしかないんだろうな。

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幸せの見つけ方がわかるかもしれないと思った「春よ、来い」

あらすじ

カナコ(宮﨑あおい)は、一人で育ててくれた母(田畑智子)から、一族で“あれ”の力を授かっていると聞いていた。そして母が亡くなる間際に伝えられた、「“あれ”を人の幸せのために使って」という言葉が忘れられない。
だから自分にとっての幸せとは何か、他人にとっての幸せとは何か日々考えていた。

そんなある日、会社に営業へ来ていた千崎(岡山天音)と、ひょんなことから付き合うことに。
2人で初めて旅行へ行くことになり、最終的に海辺にたどり着く。

雄大(池松壮亮)は、脳梗塞で倒れ、半身まひが残る父・充流(田中哲司)を世話するため、長期休暇を取った。
父が退院したので、彼が経営する海のそばにあるペンションへ戻ってきて、久々に親子二人で過ごす。
そこで、一族で授かっている“あれ”の力を何に使うかという話になるが……。

両親を車の事故で亡くし、祖父・草平(きたろう)と叔母のなりみ(小野花梨)と暮らしている多英(白鳥玉季)。
家族との日々は楽しいけれど、学校ではいじめられる日々。それがエスカレートしていき、ついに学校へ行けなくなってしまう。
見かねたなりみが、免許取り立てにもかかわらず、多英を海までドライブへ誘う。

レビュー

登場人物たちのバックグラウンドがストーリーを追うごとに明らかになっていくタイプのドラマで、最初、状況を掴むまで実は少し戸惑った。
しかも、3つのストーリーが並行しているので、これらの話がどう関係してくるのか終盤まで想像がつかなくて。
だから、途中まで、この話はどうなっちゃうのか不安だったんだよね。

でもカナコと雄大と多英の物語がおもしろい形で交差する。しかも交わった瞬間、心がほわっと温かくなる優しさのオーラに包まれるような不思議な空気があって。
それを体験できるところが、この作品の味わい深いところ。

おそらく今回のストーリーのテーマは「幸せ」。
“あれ”の力もカナコが母に忠告されたように、できれば幸せなことに使いたいもの。
だからこそカナコも雄大もいつ使うか悩む。
そして多英は、別の学年の深海さんともっと仲良くなることと、クラスメイトにいじめられている現状から抜け出すことが幸せ。
そんな3人の言動から感じた幸せを見つける方法は、日常から抜け出しちょっとした冒険をしたり、あるいは逆に日常の中にどんな些細なものでもいいから幸せを見つけたりすることなんだと思う。そして、救われてほしい人を応援することもそのひとつに挙げられるかな。

「春よ、来い」というタイトルと物語の関係性が当初は全然見えなかったけど、春=待ち侘びていた幸せだと捉えればものすごく合点のいく内容だった。

作品概要

タイトル:『ユーミンストーリーズ』
放送日:2024年3月4日〜3月21日
放送時間:月曜〜木曜22:45〜23:00(夜ドラ)
放送局:NHK総合
出演:夏帆、金子大地、中島歩、青木柚、片桐はいり、菅野莉央、麻生久美子、篠原ゆき子、伊東蒼、クリスタル ケイ、浅田美代子、宮﨑あおい、池松壮亮、白鳥玉季、小野花梨、岡山天音、田中哲司、きたろう
原作:綿矢りさ(「青春のリグレット」)、柚木麻子(「冬の終り」)、川上弘美(「春よ、来い」)
公式サイト:https://www.nhk.jp/p/ts/GJMV8PWM6R/

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